編集長ブログ

愛してやまない、ドラマ『密会』Vol.4/ビリー・ジョエル「ピアノマン」

歳の差20歳のピアニストの純愛を描いたドラマ『密会』は、クラシック音楽に魅了されるドラマでもある。俳優の心理やストーリーが、緊迫感あるBGM、情感豊かなクラシックの演奏とともにグイグイと導かれていく。音楽が完璧に主役のひとつとなっているのだ。セリフは少ない。しかし名前が挙がるピアニストや演奏曲には物語の鍵を握る伏線が張られ、あとでそのことを知り、鳥肌が立つ。

ドラマ密会公式サイト

http://c7mikkai.jp/#top

青春なんてなかったけど、心に残っている曲があるわ

度肝を抜かれた音楽シーンがある。第12話「逃避行」で、ソンジェ(ユ・アイン)とへウォン(キム・ヒエ)は、日々のストレスに堪え兼ね、バスに乗り込んで街を離れ、古民家風のゲストハウスに宿泊する。そこでソンジュ(ユ・アイン)は音楽アプリをへウォン(キム・ヒエ)のスマホに入れてあげ、思い出の曲を聴いてみないかという。へウォン(キム・ヒエ)は「青春時代のヒット曲なんて覚えていないわ。聴く暇なんてなかったから」と言いつつ、ふとある曲を思い出す。

へウォン(キム・ヒエ)は財閥の会長の娘と一緒に学生時代アメリカに留学していたが、その時に会長から依頼され、娘のお目付役のアルバイトをしていた。その娘は現在へウォン(キム・ヒエ)が勤務している財閥系アートセンターの代表となっており、今も同じように彼女のお目付役を続けている。上流階級の人間になるために、へウォン(キム・ヒエ)は彼らにとって役に立つなくてはならない存在として“奴隷”のように従っていたのだ。

その“アルバイト”で、会長の娘がクラブで遊んでいる間に待っているカフェがあり、へウォン(キム・ヒエ)は、そこでいつもかかっていた曲を聴きたいという。店のオーナーは夜9時になるといつもこの曲をかけたという。

そんな思い出の曲を聴きたいなんて・・・ソンジュ(ユ・アイン)は少し呆れるが、彼女にアーティスト名と曲名を聞いて、その曲をスマホに入れる。

店のオーナーは夜9時になるといつもこの曲をかけたの

突然、ポロロンというピアノのイントロと軽快なハーモニカの伴奏とともに歌声が大きく流れる。

ビリー・ジョエルの「ピアノマン」だ!
『密会』の中の唯一のポップスであり、初めての歌声だ。
これには驚いた。しかも曲はずっと流れ続け、二人は座って並びイヤホンで聴いているだけだ。

へウォン(キム・ヒエ)には、青春時代を思い出し、そして自分の歩んできた人生を振り返る曲だ。時々辛そうな表情をみせ、涙を流すへウォン(キム・ヒエ)。一方ソンジュ(ユ・アイン)にとっては、初めて聴く曲。当時のへウォン(キム・ヒエ)を想像しただろうし、歌詞の意味も噛み締めただろう。少し戸惑った表情を見せたり、聴き入っている彼女に少し微笑んだり、彼女の涙に辛そうにもする。

しかし、彼女の涙を拭いたり、肩を抱いてあげたりはしない。それがこの演出の凄いところだ。へウォン(キム・ヒエ)もソンジュ(ユ・アイン)も歌をただただじっと聴いている。そしてそれを見ている私たちも・・・

「ピアノマン」は、1973年にシングルリリースされた、ビリー・ジョエルの代表作だ。へウォン(キム・ヒエ)は、これは自分の親世代が若い時に流行った曲だといった。ビリー・ジョエルの「ピアノマン」を愛している、70年代に青春を過ごした若者は多い。ビリー・ジョエルの「ピアノマン」は、見る側もそれぞれの青春や人生にタイムスリップしてしまう曲だ。だからじっと聴き入ってしまうのだ。

オフィシャルミュージックビデオでは、ピアノマンのビリー・ジョエルや店の様子がありありと映し出されている。実にかっこいいミュージックビデオだ!

私はこんなところでは終わらない

ビリー・ジョエルは1971年にデビューしたがヒット曲もなく、しばらくはロサンゼルスのバーで、ピアノマンとして演奏のアルバイトをしていた。その実体験をもとにつくられたのがこの「ピアノマン」だと言われている。

「土曜の夜9時、いつもの顔ぶれが集まってくる」という歌詞で始まる。
ムービースターや小説家を目指しているものもいるが、思うようにいかない人生だ。みんな孤独を紛らわすためにここに集まっている。だけど「こんなところでくすぶっている奴じゃない」「俺たちはこんなところでは終わらない」そんなニュアンスが伝わってくるような歌詞だ。

「人生って孤独なのよ」とへウォン(キム・ヒエ)はいう。自分の人生を諦めかけている彼女に、「まだ遅くない」「人生に大金は必要ない」「選ぶ権利はある」「可能性はある」とソンジュ(ユ・アイン)は答える。

ビリー・ジョエルの「ピアノマン」は、へウォン(キム・ヒエ)が自分の人生を振り返り、新しい世界へ進むきっかとなる重要なシーンだった。
「私はこんなところでは終わらない」
「ピアノマン」のメッセージは、へウォン(キム・ヒエ)にしっかり届いたはずだ。

次回は、ソンジュ(ユ・アイン)がリスペクトしているピアニストや演奏曲について語りたい。