編集長ブログ

ユ・アインという唯一無二の俳優のこと

私は常に挑戦するユ・アインの生き方をリスペクトしている

『地獄が呼んでいる』のユ・アイン バージョンのポスター
静かで気味の悪い宗教団体の議長を演じたユ・アイン 。顔つきも人格も違っていた

韓流ドラマや映画を観はじめて、1年余りになる。年数のわりには、かなりの本数を観ているので、俳優のことも、作品の内容も1年前とは段違いの知識がついてきた。心ときめく俳優もずいぶんと増え、出演作品の追っかけもしている。しかし私はどんなに大好きな俳優も、作品の中でときめくだけで彼らのプライベートには関心がない。ところがユ・アインだけは違う。ユ・アインは別格の存在なのだ。彼がどんな考えを持ち、どんな行動をするのか、彼の価値観、その一挙手一投足がものすごく気になる。彼の好きな音楽、彼が好きな人、彼が好きな映画やドラマ、彼が好きなアート、彼の政治や文化などに対する発言などに刺激される。俳優としてしての素晴らしさは言うまでもないが、私は自分に正直になろうとし、常に挑戦するユ・アインの生き方をリスペクトしているのだ。

「今度の彼は、一体なにをしでかすのだろうか」

ドラマ『密会(2014)』以降のユ・アインは、スクリーンで会うたびに私たちの概念を変える。『バーニング 劇場版(2018)』あたりから、その裏切りが実に刺激的だ。

数々の映画祭の主演男優賞を総なめに。2021年の映画界はユ・アインの年だった

体重を15kg増量して挑んだ『声もなく』
2月に開催された第41回青龍映画賞の授賞式で、主演男優賞を受賞したユ・アイン。とても清々しく、10月のユアインとはイメージがずいぶん違う。

2020年から2021年にかけての韓国映画界は「ユ・アインの年」と言っても過言ではない。ユ・アインが出演したのは、新人監督のホン・ウイジョンによる低予算映画『声もなく(2020)』。彼は体重を15kg増量し、セリフが全くない役に臨み、第41回青龍(チョンリョン)映画賞の主演男優賞を受賞。第57回百想(ペクサン)芸術大賞では、男性最優秀演技賞を。2021年のカナダのファンタジア国際映画祭のシュヴァル・ノワール・コンペティションでも主演男優賞を受賞した。青龍映画賞の主演男優賞は、2015年の『王の運命ー歴史を変えた八日間(2015)』でも受賞しており、2度も受賞しているのは、名優ソル・ギョンギュに続く2人目だ。

ユ・アインが選んだのは新しい映画製作・・・低予算、新人監督、作品の芸術性、映画の共同作業だった

『声もなく』の製作風景。右はホン・ウィジョン監督、中央はユ・アイン

ユ・アインは「今回の青龍映画賞の主演男優賞の受賞は、特別な意味のあるもので、とても欲しかった。前回の受賞よりも嬉しいと」語っている。新人監督の低予算映画『声もなく(2020)』の出演は、ユ・アイン にとって商業映画からの脱却と、作品の芸術性の選択という、明確な意思があった。女性監督特有の温かさとは異なる、好き嫌いがはっきりする「犯罪ジャンル」の実験的な作品であったが、ユ・アインは監督の挑戦する姿勢に共感し、この作品を選んだ。受賞は、ユ・アインの選択は間違っていなかった証となる。だからこそ強く受賞を望んでいたのだ。今年2月に行われた第41回青龍映画賞の授賞式のユ・アインは、受賞の喜びが現れ、溌剌として輝いていた。

パク・シネと共演したゾンビ映画『♯生きている』は、最初から最後までユ・アイン の演技だけでぐいぐいと惹きつけていった生存スリラーだった。
『生きている』の製作時にチョ・イルヒョン監督(右)と楽しそうに打ち合わせするユ・アイン(左)

ちなみに、『声もなく(2020)』の少し前に製作された『♯生きている(2020)』のチョ・イルヒョン監督も新人監督だった。普段は、自分のキャラクター以外は、監督に意見をいうことのないユ・アインだが(自己主張の強い人間に見られているが・・・)、この作品は自分の出番が多いことや、閉ざされた空間での難しい演出のため、意見を言うことが多かったという。監督もユ・アインや共演のパク・シネたちのアイデアを喜んで取り入れ、共同作業が行われた。ユ・アインは自分でリハーサル映像を撮って監督に送ったりもした。『声もなく(2020)』のホン・ウイジョン監督とも、共同作業が行われたが、たまたま二人とも「新人監督」ということからできたことだった。いままで撮影現場において言いたいことを我慢して息苦しさを感じていたユ・アインにとって、初めて「一緒にやる喜び」を感じた経験だったという。

レッドカーペットでユ・アインは傲慢で不気味なスーパースターを演じていた

10月の第26回釜山国際映画祭のレッドカーペットのユ・アイン
2021釜日(プイル)映画賞で主演男優賞を受賞したユ・アイン
第15回アジア映画賞で主演男優賞を受賞したユ・アイン

今年の10月、「第26回釜山国際映画祭/2021釜日(プイル)映画賞(主演男優賞受賞)」「第15回アジア映画賞(主演男優賞受賞)」などのレッドカーペットに登場したユ・アインの人相が大きく変わっていたのに、大変驚いた。一言で言うと「人相が悪い」。少し浅黒く、目がギラギラし「自分はみんなとは違う」と言わんばかりの自信に満ち溢れている姿は、“傲慢”にすら見える。車からエレガントに登場し、ランウエイのように颯爽とレッドカーペットをウォーキングし、グラビア撮影のようにカメラにポージングする。目の配り方、どれひとつとっても隙がない。ユ・アインは、どんなスターよりも飛び抜けてかっこよかった。他の俳優が見せるような、はにかんだり、戸惑ったりする“素”の姿が一切ないのだ。カメラの前のユ・アインは、反感を買われるほど傲慢で不気味なスーパースターを“演じて”いた。

なぜだろう・・・その答えは、すぐにわかったような気がする。

ユ・アインは俳優であるが、プロモーターとしての意識も強いのだろう

『地獄が呼んでいる』のメインキャストのNetflixプロモーション画像。
左から、ヤン・イクチュン、ユ・アイン、キム・ヒョジュン、パク・ジョンミン、ウォン・ジナ
『地獄が呼んでいる』が、第26回釜山国際映画の招待映画となり、メインキャストとともに舞台挨拶に登場したユ・アイン

この時期、マスコミのユ・アインへの関心は、11月19日にNetflixで公開される『地獄が呼んでいる(2021)』に向いていた。ユ・アインにとっては『シカゴタイプライター~時を超えてきみを想う~(2017)』以来のドラマ出演だ。世界的大ヒットとなっているNetflixの『イカゲーム(2021)』に続く大ヒットも当然期待されているはずだ。第26回釜山国際映画祭では招待作品である『地獄が呼んでいる(2021)』の舞台挨拶も行われたが、そこでもユ・アインは、不敵な笑みを浮かべて不気味さを漂わせていた。このユ・アインの不気味さが、彼が演じる新興宗教の教祖チョン・ジュンスを匂わせ、人々に一層『地獄が呼んでいる(2021)』への関心を高まらせたのは言うまでもない。『声もなく(2020)』出演のために15kg増量したユ・アインは、20kg減量して『地獄が呼んでいる(2021)』に挑んでいた。同一人物とは思えないくらい、容貌も人格も変わっていた。なんという“変態”ぶりだろう・・・

釜山国際映画祭は、韓国の映画やドラマを世界マーケットにアピールする場として開催されるもので、政府も支援してきた。『地獄が呼んでいる(2021)』は、既に9月には第46回トロント国際映画祭で、続いてロンドン国際映画祭でも上映され、積極的なプロモーションを行ってきた肝いりの作品だ。当然ユ・アインも世界を意識してアピールしていたはずだ。彼は俳優であるが、クリエーティブディレクターでもあるので、プロモーター意識も高いのだろう。さらに言えば、韓国にとどまらず、世界レベルのカリスマ俳優の存在を意識的にアピールしていたのではないかとも思えた。

『地獄が呼んでいる』は1日で Netflixテレビ部門第1位に!

11月19日にリリースされた『地獄が呼んでいる(2021)』は、たった1日でNetflixテレビ部門で1位を獲得し、世界的なヒットとなった。リリースから3日間で4,348万回の視聴時間を記録し、世界12カ国で「トップ10」に1位、世界59カ国で「トップ10」にランクインした。これは『イカゲーム(2021)』を抜いて、Netflixの韓国シリーズの最速だという。この背景にはNetflixの巨大投資がある。Netflixの韓国への今年の投資額は約520億円。昨年までの5年間の合計が約730億円だったというから、その投資額の急増加に驚く。コツコツとやってきた韓国の海外戦略が確実に実を結んでいる。

【Textile-Tree/成田典子】