クラウン(Clown)のこと

「ロネ&ジージ(RONE & Gigi)」をご紹介します。『つなぐ通信』近江特集で取材させていただいた、「多賀あさひや」の店主・井上和子さんがぞっこんのクラウンのデュオ(二人組)です。
ところで「クラウン(Clown)」をご存知ですか?
「王冠」のクラウン(Crown)ではありません。日本では「クラウン=道化師」と訳されることが多いようですが、ただ面白おかしく笑わせる芸人とは違うのです。欧米ではクラウンは、バレエやオペラと同じく歴史や伝統があるハイアートに分類される「表現芸術」のひとつで、「コメディ・アーティスト」としてリスペクトされています。ロネ&ジージは、クラウンが正しく理解されていない日本に、クラウンの素晴らしさを普及させようと、30年以上に渡りライブステージはもとより、後進育成のクラウンの教育活動も行っている、日本でもトップクラスのクラウンなのです。
ロネ&ジージChannel
ロネ&ジージのライブステージ


今年の1月に東京・表参道の「表参道ラパン・エ・アロ」でロネ&ジージのライブステージがあると伺い、早速出かけました。初めて体験するライブは、コロナ禍で人数が制限された、貸切のような何とも贅沢な空間で行われました(しかも食事・飲み放題ドリンク・スタッフのサービス付き)。久しぶりにライブステージを行える彼らの喜びもビンビン伝わってきます。私たちは子供のようなピュアな気持ちで楽しく幸せな時を満喫し、すっかりロネ&ジージのファンになったのです。家族3代で楽しめるパフォーマンスなのですが、これは大人の「密かな楽しみ」にしたいという独占欲も湧き上がります。


2回めは、5月に新自由が丘の「川崎市アートセンター アルテリオ小劇場」で行われたライブステージでした。第一部はロネ&ジージが主宰するクラウンスクール「オープンセサミ」で学ぶ仲間たちのステージ、第二部がロネ&ジージです。カラフルなメイクと衣装のクラウンたちが、ステージが始まる前に客席に登場し、わたしたちを楽しませてくれます。会場の入り口で、お客さんを出迎えてくれるクラウンを見ただけでテンションが上がります。まるで遊園地に行ったときのように。派手な衣装と、ユニークなメイクには不思議な力があるんですね。
「クラウン劇団 OPEN SESAME」のHP


私は、スクールの皆さんのステージを見て、クラウンの魅力というのは、技術の高い低いではないんだなあと感じました。ロネ&ジージは、間抜けなパフォーマンスでハラハラさせながら最後にすごいジャグリングをやってのけるスキルの持ち主。しかしスクールの皆さんは力量の差があり、何回か失敗するし、踊りも覚えられずただ体を動かしている方もいます。けど「No problem!」なのです。観客は、一生懸命のクラウンに癒されるし、失敗し誤魔化し笑いをしているクラウンに「頑張れ!」と応援します。どこか幼稚園か小学校の学芸会を見て妙に感動してしまう感覚と似ています。



クラウンというのは、「観客と暖かさでつながっている存在」なんだなあ・・・そう響いてくるステージでした。
クラウンの真実・・・


あとで聞いた話です。クラウンになりたい方は、目立ちたがりややパフォーマンス好きなのかなあと思っていました(お笑い芸人のように・・・)が、全くその反対だというのです。人間関係が苦手な孤独なタイプが多く、明るいキャラクターのクラウンが、必ずしも本人のキャラクターとは一致しないようです。
ロネ&ジージが教えているのは、劇場公演を軸に活動する「劇場型クラウン」ですが、日本ではまだ少ない分野です。今回ステージに立ったスクールの皆さんは、自分のキャラクターも衣装も演技も全て自分で考えたものとのこと。「劇場型クラウン」は、まず自分の「キャラクター設定」からはじめます。これがとても重要で、キャラクターを特徴づける仕草・口癖を考え、自分の考えたストーリーに起承転結をつけて、技を織り込んでいくのだといいます。
そうやって非日常の新しい自分(クラウン)になり、日常の自分を“解放”しているのでしょう。だからクラウンに憧れるのかもしれません。


ステージではクラウンを演じているのですが、演じながらもどことなく“素”の人間味が伝わってくるのは、根底にそういう奥深さがあるからだと思いました。ちなみにこの時のステージには70代のクラウンが2~3人いたそうです。すごいです。全く気がつきませんでした。
私はクラウンには随分前から興味があり、昔観た『天井桟敷の人々』を思い出しました。もうストーリーは忘れてしまいましたが、大好きな映画でした。ミラノ・ピッコロ座の日本公演「アルレッキーノ/二人の主人を一度にもつと」も見に行きました。クラウンの二面性に惹かれるものがあったのかもしれません、しかし、当時はクラウンへの理解度は低く、深い意味もわかりませんでした。今回こうしてロネ&ジージと出会ったことをきっかけに、クラウンのことを少し勉強してみる気になりました。

