素材の話

贅をつくす「花見の陣地取り」絵柄!

花見の席の「衣装くらべ」だったのでしょうか・・・

先日見せて頂いた「衣桁掛け(いこうかけ)」の続編です。
上の写真はローブに無造作に豪華な着物がたくさん掛けられた絵柄ですが
黒地なので「留袖(とめそで)」でしょうか…それにしても珍しい柄です。
これを所有の赤井さんが、以前着物に詳しいお母様から聞いていた話しによれば「お花見の陣地取りの風景」でこの絵柄は「春の柄」として認識されているようです。多分、江戸時代頃の花見の風習ではないかと思い調べてみました。

よく見ると手の込んだ細やかな刺繍が…

江戸時代の花見は春の遊興のメインイベントだったようです。武家でも大店の商家でも家臣や一族、奉公人が打ちそろって出かけ町屋でも、町内会ごとに世話役を設けて団体で出かけ、長屋の住民も大家・店子が一緒になって
花見に出かけていたといいます。
身分を問わず江戸の住民にとって花見は「必須の行事」だったのです。そういえばタクアンを卵焼きに見立てた落語の「長屋の花見」は有名ですね。

お花見では大名やお金持ちは「花見幕」や「幔幕(まんまく)」と呼ばれる幕を張り自分たちの独自の空間を楽しんでいたようです。また町娘にとっては「玉の輿」を狙う絶好の場所でもありこの日のために正月用の着物を我慢してもお花見用の小袖をあつらえたといいます。
おそらくこの「衣桁掛け」の「お花見の陣地取り」の絵柄は大店のデモンストレーション。年頃の娘がいることをアピールしたのか、華やかな女性を引き連れた桜の宴のアピールか…

それだけ江戸の住民にとって一大イベントのお花見が今年は自粛。それぞれの想いで、静かに花を愛でる年になりそうですね。きっと来年は、大宴会で盛り上がるでしょう。

 

【Textile-Tree/成田典子】