素材の話

「アイリッシュ・クロッシェ・レース」とタイタニック号の話

カギ針編みのレースを「クロッシェ・レース」といいますが
「アイリッシュ・クロッシェ・レース」というものがあるのを
ご存知でしょうか。
アイルランドで作られていたクロッシェ・レースで
アイルランドの国花であるシャムロック(クローバー)や
アザミ、バラ、葡萄など
宗教的にも意味をもつ柄を編み込んだもの。
柄が盛り上がって立体的になっているのが特徴で
とても手の込んだレースです。
実はこのレース、1912年に遭難したタイタニック号と
意外な共通性があるのです。


・・・・・『テキスタイル用語辞典』より・・・・・

映画『タイタニック』を見た方なら
レオナルド・ディカプリオ演じる主人公ジャックが3等客室で
仲間と一緒に伝統的なアイリッシュ・ダンスに興じている
パーティーシーンが強烈に目に焼き付いているはず。
アイリッシュ音楽ブームにも拍車をかけました。
音楽とダンス好きの3等客室の彼らは、「ジャガイモ飢饉」で
アメリカに渡ろうとしている「アイルランド系移民」なのです。

1846年、アイルランドはジャガイモの疫病が大発生し
壊滅的な被害を受けました。
当時アイルランドはイギリスの植民地下にあり、
アイルランド人の3分の2は農業に従事。
典型的な植民地型農業で、
ジャガイモを主食としていた小作農達は飢えに苦しみ
100万人以上といわれる餓死者を出しました。
アイルランドでは新天地を求め、
ゴールドラッシュに湧いていたアメリカやカナダなどに
移民となって人口が流出。
その数は200万人以上ともいわれています。
ケネディ大統領の先祖もジャガイモ飢饉時の
アイルランド移民だったのは有名な話です。

このジャガイモ飢饉による大ピンチを救ったのが
なんと「アイリッシュ・クロッシェ・レース」だったのです。
ジャガイモが作れなくなった農民達が目を付けたのが
ずっと作り続けてきたクロッシェ・レースを輸出することです。

アイルランド以外ではほとんど知られていなかったレースですが
ニードル・レースにも似ているゴージャス感のあるレースは
たちまち人気を得、世界中に知られることになり、
多くの外貨を稼ぎ、この危機を救ったといわれています。

素材に興味のわいた方は『テキスタイル用語辞典』も
ぜひご覧ください。
読み物としても面白い解説が好評です。

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文:編集部Kazumi