素材の話

近江上布の「林与」の挑戦!

HARVEST ♯002』に出展していた、近江の麻の老舗「(株)林与」を紹介します。
今回の展示会で目を惹いたのが、初お披露目となる
アーカイブの近江上布のプリント柄です。
「林与」は、明治30年、近江上布の織元として創業しました。
「上布」とは上質なラミーで織った高級な薄手麻織物で
江戸幕府への「上納布、献上布」とされたものです。
近江上布は、非常に高度な絣柄が特徴ですが、
現在はほとんど織られてはいません。

「林与」の近江上布の記事はこちら↓


・・・・ハンガーにはたくさんのアーカイブの近江上布の一部が掛けられています。
手前がプリントにしてワンピースにしたもの・・・・


・・・・「林与」のアーカイブの近江上布・・・・


・・・・現在「林与」は麻の先染めを得意としています・・・・

実は数年前に、「林与」の倉庫から
近江上布の柄見本が1万枚近く発見されました。
林社長は、今見ても色褪せることのない素晴らしいデザインの柄を
現代に復活できないものかと考えていました。
私も以前実物を見せていただきましたが、
植物柄を中心にものすごいバリエーションがあり、
洋服にしてもステキな、モダンな柄が多くあります。
昨年より「近江上布柄プロジェクト」として着々と計画が進められ
色々試行錯誤したようですが、
10月の『インターテキスタイル上海』で初披露し、
日本では今回の『HARVEST』の展示会が初めてです。


・・・・お披露目された近江上布柄のプリント・・・・


・・・・麻と綿で作りましたが、麻の方が近江上布のニュアンスに近いようです・・・・

柄付けは、顔料と染料で行いましたが、
染料の方が自然な感じたったので、こちらを採用。
染めには「しごき染め」を用いたといいます。
「しごき染め」は、江戸小紋などで行われる地染めで、
型紙を使い、柄部分に糊置きして防染したあとに、
柔らかな色調の色糊(いろのり)を生地全体に塗り付け、
それをヘラでしごいて染める染法です。
地色が真っ白ではなく、
生成りや柔らかなピンク味に染め上げることができるので
ナチュラル感のあるいい雰囲気の柄になります。
今回は、しごき染色機を持っている染色工場と取り組んだそうです。


・・・・地色に微妙な色があるのが「しごき染め」の特徴です。
「林与」のロゴマークもネームも入っていて“ブランド”を感じます!・・・・


・・・・麻なのに、クシャクシャにしても、シワをあまり感じません。
「しごき染め」の特徴なのかもしれないと語っていました・・・・

染める布も麻と綿など、何種類が実験しました。
今回の展示会にも、麻と綿の両方が展示されていましたが、
やはり、麻の方が、本来の近江上布に近いような雰囲気を持っています。
そして、今回「しごき染め」を行った麻生地で、林社長が気がついたのは
「しわになりにくい」ということです。
『インターテキスタイル上海』に持っていったときも、
トランクに無造作に入れていたのに、
「ほとんどしわが目立たなかった」というのです。
これも「しごき」を行っている効果なのでしょうかと、話しておられました。


・・・・テキスタイルアワードで、総合の3位を受賞したトロフィと賞状・・・・


・・・・中国語の賞状・・・・

今回の展示会でもうひとつのお披露目は
10月に上海で開催された中国紡織工業連合会主催の
テキスタイルアワードで、総合の3位を受賞したトロフィーと賞状です。

といっても狭い『HARVEST』の会場では、飾るところも無いので
まだ、お客様が少ない時間にそっと撮影させていただきました。
受賞の対象になったのは、リネン100%のブラックデニムです。
中国では今、「黒」がトレンドになっており、
これもいいタイミングだったようです。

受賞の記事はこちらをご覧ください。
http://textile-tree.com/tex/hayashiyo-china/


・・・・受賞したリネンのブラックデニム(左)・・・・


・・・・総合3位のリネンのブラックデニム製品が
掲載されているパンフレット(右下)・・・・


・・・・日本企業では、もう1社小松精練のリアルなアニマルプリントが受賞。
こちらは、部門賞のクリエイティブデザイン賞・・・・


・・・・ちなみに、1位となったのが中国のメーカーのこちらの素材・・・・

リネンデニムは、インディゴは糸の中心が染まらない
中白(芯白)にしていますが、
ブラックデニムは反応染料で色落ちしないようにしています。
このリネンデニムは気仙沼の「㈲オイカワデニム」とコラボして
新製品を企画しているそうです、
『ジャパンクリエーション』で偶然「㈲オイカワデニム」を知り、
ラミーのミシン糸を持っていることなど
目立たないブースなのにやっていることがスゴイと意気投合。
これもどんな製品ができるのか楽しみです。


・・・・村田染工とコラボした鮮やかな草木染めのリネンストール・・・・

リネンストールでは、京都の「(株)村田染工」とコラボして
カラフルな草木染めのストールを提案。
「これが本当に草木染め?」と、驚くような鮮やかな色合いです。
以前より展示会に伺うと、鮮やかな草木染めの製品を見ることがあり、
聞いてみたらほとんどが「(株)村田染工」のものでした。
偶然にもこの日、「(株)村田染工」の村田社長とお会いすることができ
色々お話しを聞くことができました。
それはまた次回お伝えします。


・・・・藍染めのストールは、林社長自らインド藍の原液で
染めたもの。爪まで藍で染まって大変だったと笑っていました・・・・

もうひとつ「林与」の製品で気になっていたのは「キッチンリネン」です。
キッチンリネンは特別珍しいものではありませんが、
「林与」のキッチンリネンほど高密度なものには
なかなかお目にかかったことがありません。
林社長に伺ったら、このくらいの高密度なものを織るのは、
途中で糸が切れるし、本当に大変だと。
しかし、使えば使う程柔らかくなり、
「一生もの」のキッチンリネンになります。
ドイツに『マングルクロス』というリネンがあります。
ローラー式アイロンに使われるとても高密度なリネンで、
摩擦や熱から衣類を保護したり、脱水効果があるものですが、
このリネンと恐らく似ているのではないかとも話されていました。


・・・・「林与」ならではの高密度のキッチンリネン・・・

「林与」のもの作りは、本当にひとつひとつが丁寧で手を抜きません。
効率や合理性だけでは計れない、もの作りへのプライドだと思います。
そういう良さがじわじわと伝わり、支持者を確実に増やしています。
また、国内外を問わず本物の近江上布を初めて展示会で見た方の反応はとても良く、
「プリントだけではなく、本格的な再現に取り組んでいく必要を感じた」と
林社長のブログ『リネン日記』でも語っていました。
林社長でしたら、きっと新しいかたちを見いだしてやってくれると思います。