素材の話

ホログラム箔金襴と、文化学園大学のファッションショー

(有)中村金襴(きんらん)工場が「ホログラム箔金襴」を織ることになった
いきさつをお話しします。

中村金襴工場は「引箔金襴(ひきばくきんらん)」という伝統的な技術を
従来の掛け軸用ばかりではなく、新しくインテリア部門も開発し
新たな市場を求め、昨年10月下旬には
中東のドバイで展示会も行っていました。


きらびやかな引箔金襴はゴージャス好きなドバイでも
きっと受け入れられると意気揚々と出かけましたが
しかし…見事に沈没…
見た目の派手なゴージャスさを好むドバイでは
渋みのある輝きは「地味過ぎ」て、ほとんど興味を示さなかったといいます。
日本の高度な技術も、ドバイの方々には関心外。
ドバイで人気だったのはインド製のきらびやかな織物でした。

中村社長は「なんとかしてドバイの人たちをアッと言わせたい!」と
日本に帰り、さまざまな素材や手法で新しい織物を試作。
引箔織りのホログラムもそのひとつで、
それが私のところに送られてきたというわけです。


ホログラムは、3Dの立体画像を記録した特殊フィルムのことで、
空間に浮かんだように見える画像を作り出すことができます。
光の当たり具合で色や模様がキラキラ変化し、
紙幣の偽造防止などにも使われている技術です。
これをフィルム糸状にして引箔織りの技法で織り込んだものです。
シート状のホログラムを貼った布はありますが
ホログラムを“織り込んだ”技術は非常に難しく
おそらく世界初ではないかと思います。

中村金襴工場が試作した「ホログラム箔金襴」は
一見ラメや一般的なフィルム糸で織ったもののように見えますが
見る角度により色の表情が変わるのは
ホログラムならではのものです。
織り方によっては、立体的な柄を
浮き立たせることも可能だそうですが
これにはかなり高度な技術を必要とします。


・・・テキスタイル企画コースの学生さんは『微細美』をテーマに
昆虫の体の美しさを表現・・・

文化学園大学服装学部の服装造形学科のショーでは
テキスタイル企画コースの学生さんが
「ホログラム箔金襴」を使用した作品を作りました。
当初より昆虫をテーマに企画しており、
玉虫のような質感の素材を探していたので
服装造形学科の鈴木教授や文化ファッション研究機構の森川機構長が
この「ホログラム箔金襴」を見た時に、“これだ!”と思ったようです。


・・・ショー終了後、ホログラム箔金襴を使用したドレスを撮影する
中国放送のカメラマン・・・


・・・アゲハチョウをイメージした作品。中に着ているドレスがホログラム箔金襴・・・


・・・靴もホログラム箔金襴で作っています・・・

中東のドバイへの進出計画、インテリア部門の開発など、
中村金襴工場の新しい試みに注目していた広島の中国放送は
今回の文化学園大学のいきさつにも興味を持ち
中村社長のドキュメンタリーの一環として
ショーを取材することになりました。
新しく生まれ変わった地元メーカーの古典素材が、
若い学生さんにどう表現されるかは
中村社長も多いに期待するところでした。


・・・メールなどで何度もやり取りしていましたが、
お会いするのは本日初めてで、感無量の中村社長(左)と森川機構長(右)・・・


・・・中国放送の取材を受けるホログラム箔金襴の作品を製作した学生さんの一人・・・

初めて学生さんのショーを見学した中村社長は
そのレベルの高さに驚いていました。
これからのファッション業界を担う学生さんや若いクリエーターに
素晴らしい技術を持った日本の伝統素材を知っていただき
新しいクリエーションで受け継いでいって欲しい。
そう願う中村社長の願いは、日本に残り少なくなった老舗メーカーさんの
切なる思いでもあるのです。


・・・中村社長の祖父の名前(カイチ)を付けたmodan kinran brand『CAITI』
を立ち上げ京都でデビューしました。ドバイのリベンジになるのか…・・・