編集長ブログ

映画「瞽女GOZE」魂の音楽のルーツを知る機会になりました

鬼になる母の愛

とてもいい映画でした。モデルになっている小林ハルさんは裕福な家に生まれましたが、生まれた時から目が見えなかったため、母親は親が亡くなっても子供が独り立ちできるようにと、瞽女にすることを決心。心を鬼にして、なんでも自分でできるように、身なりや振る舞い、女として欠かせない裁縫などを厳しくしつけます。瞽女になったハルさんは2人の師匠と出会いました。厳しく接した師匠、暖かく接した師匠。そういう母娘の関係、師匠の関係が、巡業の旅を通じ、厳しくそして美しい四季の風景に描かれます。過酷な冬の修行、濁流の大音響に怯え、見えない花畑に美しい風景を感じ・・・と、映像もとても素晴らしいものがありました。

この映画の瀧澤正治監督は、17年前に小林ハルさんの存在を知り、映画化を考えていたそうです。映画化のために私財を売り、資金を作ったと伺いました。瞽女のことや、小林ハルさんのことはYouTubeにも出ているので、知ることができ、唄も聞くことができます。目が見えない境遇に生まれ、日常生活も人一倍努力し、さらに歌や三味線の芸を磨き、一人前になった瞽女の歌声は、心に響き目頭が熱くなります。過酷なことを乗り越え乗り越えて来た「魂の歌」と言えるものなのでしょう。

瞽女唄は祝言の唄、癒しの唄

娯楽の少ない時代、農家では瞽女唄を聴くのをとても楽しみにしていました。それは娯楽として唄を楽しむだけではなく、農家の重要な収入源であった養蚕のお蚕さんに、瞽女唄を聞かせると良質な生糸を出すと喜ばれたからです。祝言(ことはぎ)の唄として家の病人を元気づけ、安産と子育てを助け、稲、麦、綿などの作物に豊穣をもたらすとされていました。瞽女さんに農家の方は畏敬の念を抱き、暖かく迎えてくれていたといいます。そういう様子が映画にも描かれていました。

ちなみに、歌手の藤圭子さんのお母さんは瞽女さんで、幼い頃に手を引かれ一緒に旅をしたといいます。津軽三味線のルーツは、越後から渡った瞽女三味線といわれています。私たちが魂を揺さぶられるような音楽のルーツが瞽女さんにあったことをこの映画を通じて知る機会になりました。

17年の歳月を経て、そしてこのコロナ禍の中で上映にこぎつけた、監督そして役者の皆さん、スタッフの皆さんの喜びはいかばかりかとお察しいたします。映画の上映期間が短いのが残念ですが(シネ・リーブル池袋10/23〜11/12)、ベルリン国際映画祭への参加も決まったと伺ったので、いい結果で、たくさんの皆さんに観ていただけることを期待しています。

瞽女オフィシャルサイト
https://goze-movie.com