編集長ブログ

片山 享監督と映画『轟音』について

福井出身の片山 享監督

6月13日、片山 享(かたやま りょう)監督の『轟音』を、池袋シネマ・ロサで観てきた。福井県鯖江市出身の片山監督とは、5月に開催された東京福井県人会で知り合った。片山監督は、6月17日より公開される映画『いっちょらい』の宣伝も兼ねて、県人会に参加していた。『轟音』は、片山監督の初長編映画。『いっちょらい』上映に先駆け、「片山享監督特集」として『轟音』『わかりません』『道草』の3本が、6月10日(土)~16日(金)に上映されることになった。私は県人会で出会った片山監督に興味を持ち(醸し出す雰囲気や、ちょっとした会話に、とても言葉を大切にしている人だと感じ)、「この人は一体どんな作品を作っているのだろうか・・・」と、他の作品も見たくなり出かけたのだった。

東京福井県人会で『いっちょらい』のPRをする片山 享監督
(右)宮田 耕輔さん:福井県のエリア情報誌『月間ウララ』編集長/
         映画「いっちょらい」プロデューサー

もう一人の片山監督

正直なところ、私は片山慎三監督は知っているが(大好きな監督だ)、片山享監督は知らなかった。42歳。二人とも同じ年齢のようだ。片山慎三監督は、日本や韓国で助監督としてキャリアを積んで力をつけ、映画『岬の兄妹』『さがす』、ディズニープラスの配信ドラマ『ガンニバル』など、製作した作品数こそ多くはないが、国内外から高い評価を受けている監督だ。商業映画も成功している。

一方、片山享監督のスタートは俳優だった。たくさんの作品に出ているが、役者として鳴かず飛ばず。俳優としての生き方、家族のことなどで悶々としていた日々が続いていた。そういう時期に「映画を撮ろう」と思い立ち、初めて製作したのが短編映画『いっちょらい』。37歳の時だった。これが評価されたことが自信につながり、映画監督としても活動を開始したという。片山享監督の作品は、そういう自分のもがきが現れている。

屈折、鬱屈、悶々、不甲斐ない・・・もがいた先にあるものは・・・

「片山享監督特集」のパンフレットには「僕が不甲斐ない人達を描いてしまうのは、僕自身が不甲斐ないからだと思います。でも不甲斐ないなりに一生懸命に生きているつもりです。」とのコメントが書かれている。鬱屈した気持ちにさせる、閉塞感のある「福井」の風土や気質も嫌いだった。しかし、福井と向き合うようになってから、気持ちも変わってきたという。まだ、1作品しか見てはいないが、『いっちょらい』の予告編や、他の作品の紹介文を読んでも、登場人物は、どこか悶々としているようだ。まるで片山監督が嫌いな福井気質は、嫌いな自分の気質のように見えてしまう。

普通の暮らしが不幸のスパイラルへ

轟音』は、福井を舞台にした、かなりヘビーな作品だった。俳優もリアリティ感があり、映画の中で響き渡る轟音は、もがきだったり、怒りだったり、どうにもならない自分の叫びのようだった。平凡な家族のちょっとした感情のズレや、軽い気持ちの不倫が、大きな亀裂となり、取り返しのつかないことへと進んでしまう。親が急に介護が必要になったことで、子供の生活が狂い始める・・・ここに登場する人たちは、貧困や暴力などとは無縁の「普通」の暮らしをしていたのに、なぜ「不幸のスパイラル」に堕ちいていくのか。どれも人ごとではないと思わせるから怖い。不快感を醸し出し、見たくないものを見せられているような気がする。片山監督はなぜ自分の恥部を曝け出そうとするのか、とも思ってしまう作品だった。

「走れ!」きっとこれが答えだろう。

轟音』は、ファーストカットもラストもかなり衝撃的で、その先の答えが描かれてはいない。しかし、人生の少し先輩として言わせていただくと、どんな悪いこともずっと続くわけではない。「この辛い時期を乗り越えさえすれば、生きていればなんとかなる」と。ボロボロになった彼らもきっと乗り越えていっているはずだ。そう思わせる(そう思いたい)力強い作品だった。一言も言葉を発しなかった浮浪者の男(役者の片山享)が、最後に叫んだ「走れ!」に、生きる光が見えたような気がした。

インディーズ映画の聖地、池袋シネマ・ロサ

池袋シネマ・ロサは、インディーズとメジャーの両方を上映する映画館のようで、池袋西口の「ロマンス通り」という、歓楽街として有名な通りにある。初めて行った私は、昭和の香り満載の環境に、ちょっとワクワク・ドキドキ感がたまらなかった。驚いたのは、観客数の少なさだった。インディーズは夕方やレイトショーの1日1回の上演というのもあるかもしれないが、観客は10人にも満たなかった。きっと宣伝不足もあるとは思うが、本当に映画製作をやっていけるのかと、本気で心配になった。ネット配信が増え、ますます映画館で観ることが少なくなった時代で、新人監督やインディーズ作品の発表の場としてこういうミニシアターがあることは本当に素晴らしい。映画館に足を運ぶことが、映画文化を支援することだとあたらめて感じた。次回は『いっちょらい』を観るのが楽しみだ。