素材の話

丹後縮緬、反物に隠した秘密!?

縮緬の反物の中から出てきたこより

先日、お母様の形見の着物や、
店を畳んだご親戚の呉服屋さんから譲り受けた着物を
たくさん所有している方をご紹介頂き
古着、反物(たんもの)、帯、端切れなどを見せて頂きました。
その中にとても不思議なものを発見しました。(写真上)

反物の端の方に、盛り上がった筋のようなものがあり
これをほどいてみると、
なんと中から「こより」のようなものが出てきたのです。
丁寧に広げてみると
そこにはこの反物を制作した会社「加忠織物株式会社」と
織った方だと思いますが「文恵」の名前が。

これを見たわたしたちは驚嘆の声を!
「文恵さんが織ったんだ!」
「どうしてこんなところに隠しているのかしら…」
なんか、ミステリードラマのような想像を巡らしてしまいます。

「こより」に書いていた住所は
「京都府与謝郡野田川町三河内」とありましたので
丹後縮緬に間違いありません。
丹後縮緬といえば、
今回『テキスタイル用語辞典』制作でお世話になっている
京都府織物・機械金属振興センター」さんに訪ねるのが一番と思い
問い合わせたところ、さっそく下記のお返事を頂きました。

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お尋ねいただきました反末の「こより」ですが
ご推察のとおり製造メーカを表示するためのものです。
丹後では「渋札(しぶふだ)」と呼んでおり、
名前は織り手さんのお名前と推察致します。
この札は、製織工程で反末に織り込みます。

「こより」にすることで、
染色しても渋札の中までは染料が入りにくいため
製造メーカー等を知ることができます。
この渋札の目的は、丹後からは多くの場合
白生地で出荷しますので
染色工程等で欠点が発生した場合に、
その欠点の原因が製織工程にあるとしますと
丹後の製造元に返すことができます。
織り手さんの名前を入れることは、
その製品の製織に責任を持つことを意味します。

この渋札の使用は現在はありません。
昭和50年頃にどの機業も使用しなくなったと思います。
理由は、渋札を入れることで、生地表面に凹凸ができ、
それに伴い白生地に毛羽立ち等の欠点が発生したためです。

現在は、不滅インク等(耐精練用のインク)を使用して
製織年月日、機(はた)番号等を捺印しております。
渋札の他産地の状況はわかりかねます。

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大変分かりやすい丁寧な説明を、ありがとうございました。
「渋札」は普通、反物の外側についている
「商品ダグ」のようなものです。
和紙に「柿渋」を塗っているので非常に丈夫です。

反物に縫い込む「渋札」の習慣は
丹後縮緬独特のものかは分かりませんが
デリケートな白生地なので、考えられた技法なのでしょうか。
製造元や「織り手さん」が自分の作ったものに
最後まで責任を持つ、こういうものづくりが
「日本の伝統」を築いてきたのだと思いました。
謎が解けた、嬉しい発見でした!