素材の話

伝統技術×ハイテク、『エコマコ』岡 正子のエシカルスタイル

長野を拠点に、エシカルなファッション・クリエーションを発信している
エコマコ』の2013春夏の展示会がありました。
エコや、エシカルをコンセプトに掲げたブランドで、
『エコマコ』のように透明感のあるきれいな色を打ち出しているブランドは少なく、
まさに会場はテーマの「光のカケラ」そのもの。
優しい光を浴び、会場全体にいい香りが漂うような心地良さです。


・・・・2013春夏『エコマコ』展示会・・・・

今シーズンは、『エコマコ』を代表するペールなファンタジー表現に加え、
「アンティーク×最先端」、「ビジネス×リラックス」、「トレンド×エコスタイル」の
3つのテーマで、新しい融合を打ち出しています。


・・・・「アンティーク×最先端」のテーマでは、クリムトやルネ・ラリックに
インスパイアされたプリント柄や刺繍がポイント。ジャカードは、
桐生の織物工場の40年〜50年前のアーカイブを復活させました・・・・


・・・・一見別々に染め分けた生地を使用しているかのように見えますが
これは1色の製品染め。異素材のため、1つの染料でこんなに違う
染まり方となってあらわれます・・・・


・・・・水玉のような刺繍は、地元の内職さんにお願いしています・・・・


・・・・水泡?、風船?不思議なディテール・・・・

デザイナーの岡 正子さんは、多彩な顔をもつことでも知られています。
(株)ECOMACOの代表であり、OKA学園トータルデザインアカデミー校長。
そして2011年からは、杉野学園 ドレスメーカー学院 院長に就任しました。
ナチュラルライフコーディネーター、カラーアナリストの肩書きもあります。

岡 正子さんは、流行を追い、大量消費・廃棄を繰り返すファッション界に疑問を抱き、
環境に配慮した、持続可能な社会のためのファッションへと方向転換。
試行錯誤を繰り返しながら、人にも環境にもやさしい
ポリ乳酸繊維やバンブー繊維、和紙繊維などと出会いました。
現在の『エコマコ』の基本となる素材です。


・・・・デザイナーの岡 正子さん・・・・

そしてもうひとつ、岡 正子さんが大切にしているのは、
日本の伝統的な職人さんの技術です。
特に京都西陣の福本染工との出会いは、
『エコマコ』のクリエーションを広げました。
福本染工は天然染色を得意とする、約130年も続く染色工房。
コンピュータ化され数値をデータ管理した染色工場が多い中
今なお、 “職人の長年の勘”による手法で染色が行われています。
染料の調合、染める釜の温度、染液に浸ける時間など、
その都度布の性質や状態を見計りながら染めます。
「繊維は生き物だから」です。


・・・・『エコマコ』としては初めての挑戦の「エコマコ・ブラック」。
キャリア向けの「ビジネス×リラックス」のテーマで展開されているもの。
プリーツや絞りはすべて京都の福本染工の職人さんの手仕事で、
絞りを入れながら染色が行われます・・・


・・・・絞りも駆使し、1回の染色で染め分けられる技術は、まさに職人技です・・・・

三代目となる伝統工芸士の福本久人さんは、
ポリ乳酸繊維やバンブー繊維、和紙繊維など、
ハイテクを駆使したエコ素材と飽くなき葛藤をして
今の『エコマコ』のクリエーションを導いてくれました。
同じ染料でも繊維により染まり具合は全く違います。
異素材組み合わせのデザインは何度も実験を重ね、
一色染めなのにピンクとグレー、ブルーとベージュに染め分けたり、
ラベンダー、ピンク、ブルー、ベージュなど、
ファンタジックなグラデーションに染め上がります。
絞りと染めを同時に行えるのも福本久人さんならではの技です。


・・・・ポリ乳酸繊維(PLA)は、主にトウモロコシを原料とした生分解性合成繊維で、
植物由来の全く新しい合成繊維です・・・・

一つ一つが、福本さんによる手作業の染色なので、
同じ染めのものは二つとありません。
この素晴らしい染めの技術を楽しんでもらうのも
『エコマコ』の大きな魅力です。
福本久人さんは、常に“挑戦し続ける”方だといいます。
微妙な色のニュアンスにこだわり続け、『エコマコ』の世界観を
デザイナーと一緒に作り上げてくれています。
だからこそ、このような素晴らしい作品が完成するのです。
京都の職人さんは、技術があるばかりではなく
「美意識の感性が研ぎすまされて」センスがいいといいます。


・・・・一回の染めで、まるで辻が花のような微妙なニュアンスの
ぼかしの染めは、まさに職人技・・・

よく、いい染色だと思い、染めているところを伺うと
大概は「京都」の染色屋さんの名前が上がってきます。
繊細な美の伝統をもつ京都で、切磋琢磨された職人さんは
研ぎすまされた感性を技術に上乗せし、
依頼された以上の仕上がりを見せてくれます。
“あか抜けている”とでもいうのでしょうか…
地域のもの作りにはその土地が育んだ
独特のニュアンスがあらわれます。
日本人の持つ繊細さのあらわれなのかもしれません。
このようなもの作りの伝統は、なくしたくないものです。


・・・・このパンツスカートも、桐生の織物工場のアーカイブ。
模様をパンチカードに入れた、昔ながらの紋紙を用いて織ります・・・・


・・・・ 透明感のある繊細な素材に、ナチュラルな手刺繍がほどこされています・・・・

岡 正子さんが大切にしている3つめのもの作りに「手仕事」があります。
前述した日本の伝統技術・職人の技を
次世代に伝えていきたいことはもちろんですが、
クラフト要素を入れた「手の温もり」を感じる服づくりをしたいという
思いも込められています。
子供の頃お母様が、何でもない洋服に刺繍をしてくれ、
それが自慢の洋服になったという嬉しさが、
手仕事への愛着のきっかけになったといいます。


・・・・子供もペットのお洋服もお揃いです・・・・


・・・・ブライダルのドレスにも手刺繍やアップリケ。・・・・

『エコマコ』のもの作りには、刺繍やアップリケなどの
クラフト要素があちこちにあり、
しかもこれは地域の内職さんや、
授産施設のみなさんとの協業によって作られています。
生まれ育った長野を愛し、長野を拠点に制作活動をしている岡 正子さんは
地域の方達と一緒に、地域に貢献できるもの作りを
していきたいと考えています。

また、ウエディングドレスなどでは、披露宴への出席者が事前に
「Fuxico(フキコ)」というモチーフを作り、それをウエディングドレスに付けて
思い出のドレスに仕上げます。
手の温もりが、家族の絆となることを知っている
岡正子さんならではの発想だと思いました。


・・・・ウエディングドレスは、染め直して
パーティドレスなどに使用することができます・・・・


・・・・ウエディングドレスのスカート部分には「Fuxico(フキコ)」のモチーフ。
Fuxicoとはブラジルの伝統的な手芸の一つで、
日本では「ヨーヨーキルト」と呼ばれています・・・・

カラーアナリストでもある岡 正子さんは、色の持つ力を知ってもらいたいと
親子で色にふれあい、色を楽しむワークショップ「光のカケラ プロジェクト」を
今年スタートさせました。
何事も「無駄にしたくない」とする岡 正子さんは、
『エコマコ』の“残布”を利用して「Fuxico(フキコ)」を作って
モチーフとしてストールや小物雑貨に利用。
最盛期が終わり捨てられる花を染料にした、長野限定のグッズも作りました。
ワークショップでは、さらに端切れをフェルトのようにして
アップリケのようなクラフトワークの小物を制作します。
「最後まで使い切る」のも岡 正子さんのエコ哲学です。


・・・・親子で参加する「光のカケラ プロジェクト」・・・・


・・・・残布は色見本に沿って染められ、「ペパーミントの香り」「初恋」などと
ネーミングされた容器に分類されます・・・・


・・・・ワークショップでは、こんな時計が作られました・・・・


・・・・残布をミシンで縫ってフェルトのように固め、アップリケしたクッション・・・


・・・・残布を利用したたくさんのFuxicoは、授産施設のみなさんが作ってくださいます。
カラフルなFuxico作りを楽しんでくださるようで、とても丁寧な作りです・・・

そして岡 正子さんにはもう一つ大きな役割があります。
次世代のクリエーターの育成です。
1946年お母様の岡 久子さんが創立したOKA学園は、
長野でも歴史のある専門学校。
岡 正子さんは1997年に校長に就任し、現在はトータルデザインアカデミーとして、
ファッションをはじめ、グラフィック、WEBデザインなどの
プロフェッショナルを育成しています。
そして2011年には、
母校でもある杉野学園 ドレスメーカー学院 院長に就任しました。
岡 正子さんのエコ哲学の元で学び育っていく学生さんは、本当に楽しみです。


・・・・2012年、スティービーアワードで金賞を受賞・・・・

岡 正子さんのことは、知れば知るほど、驚くことが多く
その経歴や受賞歴には目を見張ります。
今年の8月もスティービーアワード(米国)主催の国際ビジネス大賞において
「Most Innovative Company of the Year」カテゴリーで金賞を受賞。
こつこつ積み重ねて来たエシカルな活動が、世界からも評価されています。
これからの、日本のファッション界・教育界を引っ張って欲しい
今後の活躍を多いに期待したいクリエーターです。

 

【Textile-Tree/成田典子】