編集長ブログ

2013・2014A/W 『T・N JAPAN東京展』Vol.2宮下織物(株)

ものづくりに職人魂を注ぐ、全国のテキスタイルメーカーの合同展
『テキスタイル ネットワーク ジャパン(T・N JAPAN)』が開催されました。
2013・2014A/Wのテーマは「職の革新〜糸にこだわる〜」。
糸にこだわった個性的なメーカーが揃いました。

「濡れ巻き整経」でシルクサテンのドレス地を織り上げる唯一の織物企業

まず一番に伺ったのは、山梨県富士吉田の「宮下織物(株)」です。
宮下織物(株)は、細番手・高密度・ジャカードを中心とした
先染織物が特徴で、
シルクブロケード、サテンやタフタのウエディングドレス生地など、
フォーマル分野を得意としています。

・・・・ホログラムジャカードや、ゴージャスなカットジャカード・・・・

富士吉田には、今年の8月に産地見学のバスツアー
ヤマナシ ハタオリ トラベル』で訪れ、
宮下織物(株)のテキスタイルデザイナー、宮下珠樹さんより
「濡れ巻き整経」でつくったシルクサテンのお話しを伺っていました。
また、「シケンジョテキ」のブログ
「濡れ巻き整経」のプラチナのような輝きの
「経玉(へだま)」という糸を巻いた塊や、
サテンの生地に魅せられていたので
今回の展示会はとても楽しみにしていました。

・・・・「濡れ巻き整経」の「機巻き」作業を行う、武藤うめ子さんの写真・・・・

「濡れ巻き整経」とは、通常は機械で行う整経を、ほぼ手作業で行う
山梨県郡内織物産地独特のシルクのたて糸整経技術です。
生糸を水で湿らせて柔らかくすることで
地合いが引き締まり、コシが強く丈夫になり、
非常に美しい光沢のある緻密な織りを生み出します。
しかし手作業で行う「濡れ巻き整経」は
気の遠くなるような時間と手間がかかるため、衰退の一途をたどり
後継者はほとんどおらず、職人さんは高齢化。
作れる方はほんのわずかです。

「濡れ巻き整経」の様子は、「シケンジョテキ」のブログをご覧ください。

「経枠」作業
http://shikenjyo.blogspot.jp/2012/03/blog-post_12.html

「組み込み」作業
http://shikenjyo.blogspot.jp/2012/03/blog-post_13.html

「機巻き」作業
http://shikenjyo.blogspot.jp/2012/03/blog-post_14.html


・・・・「新小石丸」を用いた「濡れ巻き整経」のシルクサテン。
生成りの上品な色合いです・・・

残念ながら、今回は「経玉(へだま)」は見ることはできませんでしたが
(かなり大きなものらしいです)
皇后御親蚕(美智子皇后が育てられている蚕)と同じ品種の
「新小石丸」を用いた「濡れ巻き整経」の
シルクサテンを見ることができました。
「経玉(へだま)」やサテンの素晴らしい輝きはぜひ
「シケンジョテキ」のブログでご覧ください。


・・・・リズムのある波形が衝撃を和らげ
優しく小物を包み込む小物用トレー『cune(クーナ)』・・・・

宮下織物(株)とプロダクトデザイナー ムラタ・チアキさんが手掛ける
『メタフィス』と協同開発した小物用トレー『cune(クーナ)』も
「濡れ巻き」のような輝きをもつポリエステルサテン生地です。
手でぎゅっとつかんだようなシワ感を求めたムラタ・チアキさんの難題に、
テキスタイルデザイナーの宮下珠樹さんが見事に応えました。
クッション性のある波形状は、よこ糸にポリウレタン糸を使い、
糸の性質で布の伸縮性と自然な凹凸感をあらわしています。
まるで布が呼吸しているようなイメージを持つことから
「レスピリズム・ファブリック」と名付けられています。
洋服やクッション、マットレスなどでも展開されます。
洋服になったデザインを見てみたいものです。

2013/2014A/Wは、“目の錯覚で浮き出る柄”を提案

2013/2014A/Wは、ジャカードが浮上しているシーズンとなっていますが
本来ジャカードを得意とする宮下織物(株)は
さらに“立体感”を特徴にしたテクニカルなジャカードを提案。
糸を切りっ放しにして柄を浮き立たせたカットジャカードや、
ホログラム糸で柄が浮き上がるような錯覚をあたえたものなど
輝きのある糸をポイントにした
大柄でゴージャス感のあるものが多く見られます。


・・・・ホログラム糸を使ったジャカード・・・・


・・・・ラメのアニマルジャカード・・・・


・・・・ゴージャスなカットジャカード・・・・


・・・・ラメ糸使いのカットジャカード・・・・


・・・・目の錯覚で砂絵のようなラメ糸部分のバラが浮き出て見えます・・・・

東京造形大学と富士吉田産地の蜜月(?)関係!

山梨の富士吉田織物産地は、4年程前から東京造形大学とコラボした
「Fujiyama Textile Project」を行っています。
若いクリエーターの感性を取り入れ、新規市場の開拓を目指すもので
約半年かけて新しいテキスタイルを開発していきます。
かなり完成度の高いものが仕上がり、
今回の宮下織物(株)のブースにも、一見クロコダイルやリザードのような
立体的なモダン柄のジャカードが展示されていました。


・・・・東京造形大学の学生とコラボしたジャカードでつくったバッグ・・・・

じつは、宮下織物(株)の若手デザイナー、渡辺絵美さんは
東京造形大学の卒業生。
富士吉田産地とのコラボがきっかけで入社することになりました。
同じようにコラボがきっかけで富士吉田で働いている同期には
「シケンジョ」の臨時職員として活躍している
高須賀 活良さんがいらっしゃいます。
とくにテキスタイル学科は、学生時代から授業で織機と親しんでいるので
かなりのレベルまでのことができ、入社して“即戦力”になるそうです。
福岡県出身の渡辺絵美さんは、
自分の手で自分の感性を生かしたテキスタイルが
つくれる喜びを語ってくれました。


・・・・デザイナーの渡辺絵美さん・・・・


・・・・渡辺絵美さんが初めてつくった「ナバホ」(右)と
「タテガミテキスタイル モサモサ」(左)・・・・


・・・・子供服メーカーに依頼されてデザインした生地・・・・

富士吉田産地は、学生コラボがそのまま産地の
若手後継者育成へと繋がり、企業と学校の関係が
上手くかみ合っているようです。
これは「東京に近い産地」という地の利はもちろんですが、
シケンジョ」が中心になり、上手に産地をまとめながら
今の時代の空気感にあった発信をしているからではないでしょうか。
特に他の産地と違うのは「デザインの発信力」が
できていることだと思います。


・・・・ジャカードをテキスタイルの魅力溢れるカルトナージュにして展示・・・・

一般的に産地の中心となって技術支援や経営支援を行っている機関は
「技術系」の職員が多く、「デザイン」「トレンド」などの
ソフト面への気配りが少ないような気がします。
「シケンジョ」はとても“見せかた”や“発信のしかた”が上手です。
これは…それに関わっている「人の力量」としかいえません。
担当者自身から、この仕事が「好きだから」「楽しいから」という気持ちや
「産地のいいものを伝えたい」という熱意がとても伝わってきます。
そういうところに、同じような気持ちを持つ人たちが
集まってくるのだと、思わずにいられませんでした。