弘子姉さんの布絵の魅力は、
細部にも手を抜かないすごさです。
よく見ると
「へぇ〜っ、こんなところに、こんなものが!」
「あっ…こんなことしてる!」と、驚くことがいっぱいあります。
ですから何度見ても新しい発見があり、面白い。
それと、子どももお年寄りも、年齢に関係なく楽しめることです。
これは弘子姉さんの創作の信条でもあります。
ご主人の純造兄さんが、建築関連の仕事をしていることもあり
家の解体などで、不要になった古い道具や
捨てるには忍びない古布などが、自然に集まってきます。
弘子姉さんの布絵には、
家族の思い出の詰まった古布ばかりではなく
近所の方々の大切な思い出も綴られているのです。
『歓(よろこび)』1990年制作(ヨコ141×タテ184cm)
布絵を始めて間もない頃の作品です。
1991年 のクロワッサン『黄金の針展』に初めて応募して
入賞をいただきました。
独学で布絵を始めたばかりの、こだわりの無い
力強く、いきいきとした表現が感じられます。
この作品は、弘子姉さんが子供の頃に見た
定置網を曳く漁師たちを描いたものです。
朝焼けの空と、大量に勇み立つ漁師たちの姿が
美しい一対の光景として脳裏に焼き付き、
この作品になったそうです。
網から飛び出しそうな魚、飛び散る水しぶきなど、
迫力ある漁の様子が伝わってきます。
網は知り合いの漁師さんから頂いた
小女子(こおなご)漁用の目の細かいものです。
柿渋で染められたこのような魚網は
今はもう見る事ができません。
魚の絵の前掛けは、今は亡きお姑さんが
当時魚屋をしていていた時にしめていたもの。
「小倉(こくら)」という夏の学生服に使われていた布など、
思い出のあるものばかりです。
『日向 水中綱引き(ひるが すいちゅうつなひき)』
1994年制作(ヨコ99×タテ105cm)
厳寒の1月の第3日曜日に、美浜町日向(ひるが)で行われる
勇壮な神事「水中綱引き」を描いたものです。
日向は、高倉健主演の映画『夜叉』の舞台にもなった漁師村です。
重要無形文化財にも指定されているこの行事は
大漁や無病息災などを祈願して
日向橋(通称たいこ橋)から川(日向湖と若狭湾を結ぶ運河)に
威勢のいい若者達が鉢巻きに腹帯姿で飛び込み
東西に分かれて綱引きが始まります。
大蛇に見立てた綱を手と歯で引きちぎり、綱を海に流します。
作品の川の部分は藍染めの布を
裂き織り(さきおり:古布を引き裂いて織ったもの)に
したものです。
ぼさぼさになった綱、たいこ橋で見学する大勢の人々
はためく大漁旗など、熱気ある綱引きが伝わってきます。
次回は、弘子姉さんの大きな転機になった
「デニムの布絵」をお伝えします。