山梨県富士工業技術センターが主催する、産地見学バスツアー
『ヤマナシ ハタオリ トラベル』で伺った(株)槙田(まきた)商店をご紹介します。
(株)槙田商店は慶応2年(1866)創業という、
江戸時代末期から続いている機屋(はたや)さん(織物メーカー)です。
創業当初は、山梨県の織物産地である「郡内地方」特産の
甲斐絹(かいき)織物卸商を営んでいましたが、震災や戦争、
そして時代の需要の変化などで服の裏地、そして傘地へと切り替えました。
ジャカードや先染めの傘地では、国内生産の約80%のシェアを占めます。
甲斐絹は羽織りの裏地に使われた「薄く・軽く・滑りの良い、高級先染め織物」です。
かつては一世風靡した甲斐絹も、非常に高度な技術を要するため途絶え、
現在は“幻の織物”となってしまいました。
しかし、甲斐絹のもつ「先染め・細番手・高密度・紋織り」などの特性を生かし
「服の裏地」「傘地」「ネクタイ地」「布団地」などへとシフトしている
織物メーカーが多いのも、郡内産地の特徴です。
146年という歴史を持つ(株)槙田商店ですが、
最先端技術の導入にも積極的です。
コンピュータージャカードも早々導入し、
現在はレピア織機を中心に、服地や傘地の120cm〜180cmの
広幅を織ることができます。
特に傘などに使用されるオリジナルジャカードは、他社には製造できない
大きな織り柄表現を可能にし、デザインの領域を広げています。
・・・・コンピュータージャカードのコントローラー。
柄のデーターを組み込んだUSBを入れて使用します・・・・
・・・・レピアのジャカード織機。柄を織る「紋織り」には「ドビー」と
「ジャカード」があり、たて糸の動かし方で、より複雑な柄を織ることができるのが
ジャカードです・・・・・
・・・・・たて糸は「綜絖(そうこう)」という細い金属棒の穴に1本1本通します。
1本1本のたて糸を上下運動させながら、その間によこ糸を通し
複雑な紋織り(ジャカード)を作り上げることができます。
(株)槙田商店にはたて糸の数が4000口〜12000口のジャカード織機があります。
1本1本の綜絖に糸を通すことを「綜絖通し」といい、とても根気のいる作業です・・・・・
自動織機は、よこ糸を巻いた「シャトル(杼:ひ)」を使用して織る
「シャトル織機(有杼織機)」と、シャトルを使用しない「無杼織機」に大別できます。
織るスピードの違いから前者を「低速織機」、後者を「高速織機」ともいいます。
生産性の高い「高速織機」を代表するのが「レピア織機」で、
織機に「ジャカード装置」を取り付けたものを「ジャカード織機」と呼びます。
(株)槙田商店のものは、レピア織機にジャカード装置を取り付けた「ジャカード織機」です。
・・・・・「レピア」とは「細い槍状の剣」の意味で、よこ糸をつかみ、
たて糸の間に差し込んで織ります。左側にある「レピア」がわかるでしょうか?・・・・・
・・・・反対側から伸びてきた「レピア」に糸を手渡しするように、つかみ替え、
よこ糸を通します・・・・
・・・・「シャトル織機」は、「シャトル」が往復してよこ糸を通すので、
糸が織り込まれ、両端は「耳」と呼ばれる形状になります。
「レピア織機」は一方通行なので両端は房状になり、織り上げた後に切断されます。
切断された紐状のものは「房耳(ふさみみ)」と呼ばれます。
房耳は、以前は廃棄されていましたが、最近は手編みや手織りなどに
利用されるようになってきました。クラフト素材としても注目されはじめています・・・・
・・・・ジャカード織機はたて糸が上に長く伸び、2階建てになっていて、
上部にたて糸のコントローラーがついていいます。
2階に人がいるのがわかりますか?・・・・
・・・・2階に上がり糸のコントローラーを見学です。
自動織機になる前の手機(てばた)の時代は、紋織り(ジャカード)を織るときは
2階建て部分に人が上がり手で糸を上げ下げしていました・・・
織物工場見学のあとは、傘工房の見学です。
織り上げられた傘生地は4枚くらいに重ねられ、三角定規のような
専用のスケールで職人さんが丁寧に手で裁断します。
・・・・これが傘を裁断する時に使用するスケール。デザインやメーカーの規格により
たくさんの種類が用意されています・・・・
・・・・(株)槙田商店のジャカードや先染めの傘地は、
国内生産の約80%のシェアを占めます。プリントと違い、ジャカードは
傘の裏側も織り柄があらわれて、きれいです・・・・
・・・・・(株)槙田商店は、傘生地の提供ばかりではなく、オリジナルの傘も作っています。
ジャカードの傘は、絵柄に合わせ織り方を変えているので、とても高級感があります
(老舗っぽいタグです!)・・・・
・・・・1本1本手づくりの傘は、ひとつつひとつ柄合わせもしっかりされていきます・・・・
・・・・・傘生地は上糸だけで縫う特殊なミシンを使用します。
上糸だけでチェーン状に縫い上げるので、ニットのように
縫い代が伸び縮みできるのが特徴です・・・・
・・・・・裁断した生地はこのように縫い合わせられ、傘らしくなっていきます・・・・
・・・・・縫い代は三つ巻にされます。日本洋傘振興協議会(JUPA)では
JUPA(ジュパ)基準を設定し、会員の洋傘の品質・信頼・安心の証として、
JUPAマークを添付しています・・・・
・・・・「傘を買うならMEDE IN JAPANで<JUPA>マークのあるものを!」と
職人さんの説明にも力が入ります。携帯電話の写真を使っての熱い解説です!・・・・
・・・・山梨県南都留郡西桂町にある創業慶応2年(1866)の(株)槙田商店です。
なまこ塀の蔵がある、歴史を感じる建物です。回りは山に囲まれ、
とてもきれいな気持ちになれる環境です・・・・
(株)槙田商店は伝統技術を活かしてながら、
新しい技術を上手に取り入れている会社です。
「傘地」という分野に特出しているのも魅力です。
今回は時間がなくて見せていただけませんでしたが、
200年前の素晴らしい織りサンプルもたくさんあり、これにも興味津々です。
いいものを見せていただきありがとうございました。
【Textile-Tree/成田典子】