「生地の耳」と本物志向

『テキスタイル用語辞典』の執筆は、
まるで「パンドラの箱」を開けてしまったような毎日です。

ちょっとしたことでも知らないことが多いし、
調べていくとまたこれが面白い。
まるで迷路のような…もつれた糸を丁寧にほどきながら
改めて日本のテキスタイルのもの作りのすごさと
「これをなくしてはいけない」という使命感すら感じています。

素材の知識が増えると、
ものづくりはもちろん、ファッションの楽しみ方が変わってきます。
昨日は「ジャパンクリエーション2012」に行ってきましたが
(久しぶりに展示会に出かけました)
素材への興味のもち方や見方が随分変わってきた
自分に気がつきました。

今、私が興味を持っているのは「耳」です。
(『素材の話』にも改めて書きたいと思います。)

生地の両端には「耳」という部分があり
普通は地組織と織りが違うので、切って捨ててしまうのですが
ジーンズなど、耳の部分を利用して縫っているものもあります。
(ほつれないのでそのまま縫い代として使えます)
生地には「耳」があるのが当たり前に思っていたのですが
ところが、現在の主流になっている「高速織機」には
「耳」がないのです。

「耳」があるのはシャトル織機などの「低速織機」だけなのです。
ジーンズなどではこの「耳」を「セルヴィッジ(耳のことです)」と呼び
ヴィンテージ・デニムとして珍重しています。

なんとユニクロの『ユニクロプラス』からも「シャトルデニム」という名前で
シャトル織機で織った「耳」付きジーンズが発売されています。
1,000円以下のジーンズが珍しくない時代に、
「シャトルデニム」は4,990円。
しかし、マニアにとっては驚きのリーズナブル価格です。

上の写真は紳士服のスーツ地の生地の耳に
会社名やブランド名、生地のシリーズ名などを織り込んだ
「耳文字」または「耳マーク」と呼ばれるものです。
最近ほとんど見なくなりましたが、この「耳文字」ができるのも
ションヘル織機という「低速織機」ならではなのです。

ファッションの価値も、デザインや価格とはまた違う
特に本物の生地(テキスタイル)や、
本物の仕立てに触れてみたいという
「本物志向」「本質志向』がじわじわと浮上してきているように思います。

いいものを長く大切に着たい。
着るほどに味の出るものを着たいという志向です。
(かつて野良着として着られていた藍染めの絣は、
本当によく考えられた合理的な織物です。
この話もいつか書きたいと思います)

「ジャパンクリーション2012」でも本物志向を追求している
魅力的な生地が出ていたので、『素材の話』でご紹介します。