素材の話

職人魂!革のような「柿渋の酒袋」と「ムカデ縫い」

先日、瀬藤貴史さんという友禅師の方に
お会いする機会がありました。
彼はご自分の作品制作はもちろんですが
専門が「染織の保存修復」で
特に日本の優れた染織技術の文化保存のために
調査研究などに力をいれています。

彼の素晴らしい活動は
また別の機会にお話ししたいと思いますが
その中で「柿渋」の話しが出たので
今回はそのお話しを…

小さな青い渋柿から作る柿渋は柿タンニンを大量に含み
防腐作用、防水効果、強度を増す効果などがあり
漆器の下塗り、魚網、番傘、雨合羽、
染色型紙などに塗られていました。
タンニンが水溶性タンパク質と結合して沈殿を生じる性質は
清酒の清澄剤として利用されているようです。

昔の清酒作りでは、濁り酒の糀(こうじ)を漉すために
柿渋の酒袋が使われていました。
防水性、防腐性、耐久性のある強固な酒袋にするためには
柿渋を何度も繰り返し塗ります。

何度も塗られたいい柿渋は
「黒光りした革」のような質感になると
瀬藤さんが教えてくださいました。

実は、私の手元には酒袋で作られたバッグがあるのです。
これは布絵作家である福井県美浜町に住む
弘子姉さんから頂いたものです。
すぐ近くの三宅酒造という造り酒屋さんから頂いた酒袋を
弘子姉さんがバッグにしたものです。

本当に革のような質感に驚きましたが
さらに感動したのは、袋を修繕している
「ムカデ縫い」「ムカデ継ぎ」といわれる技術です。
力強く美しい「継ぎ」の手法で
道具を丁寧に丁寧に修繕しながら大切に使ってきた
職人魂が伝わってきます。

弘子姉さんはこの「継ぎ」に魅せられ
残したくてバッグの蓋裏に使いました。
瀬藤さんのブログでも柿渋塗りの作業のことが
書かれているので、こちらもご覧ください。
http://ameblo.jp/threebee-art/entry-10883701406.html

残念ながら瀬藤さんの調査によると純粋な国産の柿で
柿渋を作っているところは日本に1軒しか無いとのこと。
ほとんどの柿渋は中国などからの輸入だそうです。
職人のいい技術を伝承していくためには
それを使う道具を作る職人さんがいなくてはできません。

瀬藤さんは「修復」という仕事を通じ
「道具」の価値にも目を向け、それを継承・保存する運動を
一人でコツコツ始められています。
このことをできるだけ多くの方に知って頂き
素晴らしい日本の財産を絶やさないようにしなければと…
痛感しました。