素材の話

「東和ニット(株)」父息子3代、チュールにかける“研究者魂”

2013 S/Sプレミアム・テキスタイルジャパン(PTJ)」でご縁があった
素材メーカーをご紹介します。

展示会ではブース自体がそんなに目立たなくても
取材してお話しを聞いて、スゴイもの作りをしていることを知り
驚くメーカーがあります。
福井県の東和ニット(株)は、
1969年創業のたて編みのニットメーカーです。
(たて編みとは、たて方向に連結して編んでいく編み方で、
伸びが少なく、織物にも似たきっちりした
安定性のある編み地になります)
特にチュールを得意とし、パワーネットなども含め
自社開発した付加価値の高いもの作りをしてきました。


・・・左は社長の鈴木英彰さん(息子)、右は会長の鈴木直之さん(父)
この日は妹さんもお手伝いしていました。
ファミリー企業は温かな雰囲気でいいですね・・・

東和ニット(株)のようなニットメーカーさんは
「ニッター」と呼ばれ、ほとんどが
テキスタイルコンバータを通じてアパレルなどに
生地を提供しています。
東和ニット(株)は、素材メーカーと一緒に生地を開発したり、
研究を重ね、下着メーカーの難題に応える生地を開発するなど
“縁の下の力持ち”として活躍してきました。

しかし徐々に下着素材の需要も値段の手頃な中国製へと
移行しはじめてきました。
それに立ち向かうためには、付加価値の高いもの作りで勝負したく
自分たちの存在をもっと直接的にアパレルや
SPAを行っている企業などに知っていただきたいと
今回初めてPTJに参加しました。


・・・アパレルなどのみなさんにチュールの説明をする社長の英彰さん・・・


・・・今回は得意とするチュールやパワーネットに展示を絞りました。
風合いが柔らかで優しい肌触りの繊細なチュールです・・・

単なる“下請けメーカー”から“企画提案のできるメーカー”として
大きく方向転換しようと考え、
現会長である直之さんは、昨年息子の英彰さんに
社長職を譲りました。
いつまでも自分が口出ししていては、
息子がのびのびと仕事ができないし、
これからの時代は、新しい考えでやることが必要と判断したからです。

東和ニット(株)は、現社長の英彰さんで3代目。
「父は、どちらかというと学者肌なんです」と英彰さんがいうように
直之さんは研究好きで、難解なものに挑戦し
新しいもの作りをするのが得意。
ある時、大手下着メーカーから、通常はナイロンで作られる
刺繍入りのチュールを、耐久性を上げ、
洗濯による縮みがないようにするために
ポリエステルで編むことを依頼されました。
ポリエステルの場合、
刺繍をするとピンホールがあいてしまうことへの対処、
ナイロンよりも硬いポリエステル糸を
いかに柔らかな風合いに仕上げるかに、かなりの苦労を要しました。
しかし直之さんの研究者魂に火が付き、
なんとチュールそのものの構造を変えてしまい、その要求に応えました。
素材メーカーとの糸の開発段階では
顕微鏡写真をメールでやり取りしながらやったと笑っていました。


・・・柔らかな風合いが特徴のポリエステルの
エンブロイダリーチュール・・・


・・・通常、チュールは「六角目」が特徴ですが
直之さんが独自に開発したチュールは、
微妙な変形六角目です。素人目にはほとんどわかりません・・・

東和ニット(株)が使用している編機は
ドイツのLIBA社のラッセル編機です。
日本ではドイツのカールマイヤー社のラッセル機が多いのですが
先々代の社長(祖父)は、LIBA社のものを選びました。
編み上げた後の張り感など微妙なニュアンスが
カールマイヤー社のものとは違い
よそのメーカーには出せない味を出しているのだそうです。
「他とは違う」とい、もの作りの“研究者魂”は
おじいさんから受け継いでいるのかもしれません。


これは「失敗作なんですよ」と、英彰さんの失敗作も見ていただこうと
今回の展示会でお披露目したのは、綿/ナイロンのチュール。
幅が広くなりすぎて、後加工できる機械が存在しなくなったのが
その所以とか。
しかし、「これはこれでいい」とおっしゃっていただく
アパレルさんもあるので、今の時代の価値観のリサーチとして
「失敗作」も重要なのだといいます。


・・ほんの少しですが、こちらも試作品。
メタリック糸やシャンブレー調で編んだもの・・・

実は、英彰さんは、最初から家業を受け継いだのではなく
今までIT企業で働いていました。
そういう面では、思考回路も先代、先々代とは違う発想を
お持ちのようです。
未だ作られていない東和ニット(株)のホームページを
「私は形ばかりのものでもいいので早く作って欲しいのですが
息子は自分のイメージがあるようで、
かなり凝ったものを考えているのか
なかなか作ってくれないのですよ」と直之さんは苦笑していました。
どんな新しいホームページができるのか…
英彰さんの心意気があらわれるものと、期待しています。

【Textile-Tree/成田典子】