素材の話

世界の頂点を目指す「ニッケ」のウール

「ジャパンクリエーション2012」の「ニッケ」では
『テキスタイル用語辞典』の素材収集で大変お世話になった
「ニッケ創作工房」の田中さんと西山さんから
説明をしていただきました。

世界の頂点を目指す「ニッケ」ならではの
技術の粋を集結し、スーパーブランドにも採用されている
ハイエンド素材の話しは、大変興味深いものばかりです。

まず驚いたのはこの色の鮮やかさです。
まるでシルクかポリエステルのような
鮮やかな色ですが、もちろんウール100%。
180番手単糸の「GOLDEN MAF」のシフォンジョーゼットです。
シフォンのような薄さのクレープジョーゼットで、
上品なシャリ感と落ち感があります。

以前、同じ素材をプルミエール・ビジョンに
黒やベージュなどのカラーで出したときは
関心を示されなかったようですが
その後、鮮やかなオレンジを差し色にしたところ、ブレイク。
(これをニッケさんでは密かに“エルメスオレンジ”と呼んでいるようです)
今回はさらに鮮やかなアソートになりました。
これらの素材はションヘル織機などの「低速織機」で織られたもので
」を発見したときは、ちょっと興奮しました。

150番手のシフォンジョーゼットは
2011年AWのエルメスに採用されています。
上のプルオーバーは、袖口と裾はカシミアのリブです。
シフォンジョーゼットとリブを繋ぐ技術の高さに
田中さんは驚いていました。
エルメスは以前も、ストール用に織り上げたシフォンを
ブラウスに仕立て上げたそうで、これにも舌を巻いていました。
アトリエの力でしょう。

左は2009年AWのマーク・ジェイコブスに採用された
150番手単糸の「GOLDEN MAF」のビエラです。
ウール100%のビエラですが、
この生地は撚糸に特徴があり、シャリ感がなく、
非常にしなやかでソフトです。

右は2009年AWのルイ・ヴィトンに採用された
90番手双糸のタスマニアウールのダブルジョーゼットです。
膨らみ感があり仕立て映えのするスーパーファインクレープ。

「ブリティッシュ・ウール・クォリティ・アワード
(2010年英国羊毛大賞 アパレル紡績部門賞)」受賞した
英国羊毛100%の梳毛のツイードです。
ぱりっとした上品な梳毛ツイードは、本当に美しい仕上がりです。

「GOLDEN MAF」は、ニュージーランドの超極細ウールの中から
さらに選りすぐられた、13〜15.5μmの最高品質のウールです。
ションヘル織機などの低速織機でゆっくりと、ふっくらと
丁寧に織られていきます。

ビキューナ100%の梳毛は、世界で「ニッケ」だけが完成させたものです。
気になる値段を伺ったところ、生地代だけでなんと29万円。
とある百貨店では、上代140万円でジャケットが販売されたそうです。
普段、生地は反物でしか販売しませんが
この生地ばかりは切り売りも可能とか…

四重織りのウールリバーシブルです。
多重組織になるほど組織が生地に厚みが増し、複雑になり、
織るのが難しくなります。
多重織りでは最高峰かもしれません。

乗馬用のライディングジャケット用に開発された生地です。
「じょうらん」という生地だそうです。
こちらも「GOLDEN MAF」を使用し、薄くハリのあるイメージですが
生地の裏側にはボンディングのケミカル加工を施しています。
丈夫さを要する乗馬生地ならではの試みといいます。

どれも、一般庶民には手が届かない生地ばかりですが
高額所得層や、本物の価値を求める層に向けて
頑張って欲しい分野です。

世界に誇る生地メーカーとしての「ニッケ」のブランディングです。
それが、「日本の生地はすごい」という評価に繋がることでしょう。

【Textile-Tree/成田典子】