素材の話

『ヤマナシ ハタオリ トラベル』産地見学バスツアー

山梨県富士工業技術センターが主催する
産地見学のバスツアー『ヤマナシ ハタオリ トラベル』(8月27日)に参加しました。
(協力:山梨県絹人繊織物工業組合台東デザイナーズビレッジ
織物産地は生地問屋(コンバーター)との取引が一般的なため
アパレルと交流することがほとんどありません。
このツアーでは、デザイナーさんなどと直接交流することにより、
産地の特性を知っていただき、また産地もデザイナーさんの要求を知り、
もの作りの活性化を図ろうとするものです。


・・・・台東デザイナーズビレッジに集合し、ここから出発です。
東京からは15〜16人が乗車しました・・・・・


・・・・山梨に向けて出発です!それにしても暑い…・・・・

山梨県富士工業技術センターは、
山梨県内企業の振興と技術の高度化を支援するための機関で
通称「シケンジョ」と呼ばれています。
繊維部の公式ブログ「シケンジョテキ」は
この織物産地の活動を知るためにもとても参考になります。
何よりも、写真のクォリティの素晴らしさと、
人の温かみが伝わってくる編集視点が私は大好きです。
「シケンジョ」には『テキスタイル用語辞典』の制作時でも
甲斐絹(かいき)などの写真や生地提供で大変お世話になりました。
山梨産地は「シケンジョテキ」を通じてとても興味を持っていましたので
今回のバスツアーは期待感でいっぱいでした。


・・・・とてもいい資料となった『ヤマナシ ハタオリ トラベル』公式ガイドBOOK・・・・


・・・・今回のツアーのスケジュールを地図で示したガイドマップ・・・・

山梨県の織物産地は、山梨県の東側の
郡内(ぐんない)」と呼ばれる地域にあります。
富士北麓に位置するこの地域は、
目の前に広がる大きな富士山に見守られながら、
江戸時代頃から絹や絹織物の産地として発展してきました。
特に羽織などの裏地に使われる「甲斐絹(かいき)」という
先染めの高級絹織物が一世を風靡。
しかし、着物の需要が激減したことや、
機械化で作ることのできない高度技術を要する織物であることから
生産が激減。今では幻の織物となっています。

第二次世界大戦前まで、日本は生糸や絹織物、綿織物などの繊維産業が
基幹産業として輸出の主座を占めていました。
明治20年頃には大きな製糸工場が全国で約650ありましたが、
現在は2つだけだといいます。
織物工場は残っていても、製糸工場はほとんど無くなっています。


・・・・織物産地の「郡内」は、山梨県の東側にあり、江戸時代から
江戸を取り囲むように発展した「絹と絹織物」の産地のひとつです・・・・

今回のツアーでは、富士吉田産地のアドバイザーもしている
台東デザイナーズビレッジ村長の鈴木淳さんがナビゲーターとなっています。
山梨に向かうバスの中で、産地の背景や、今回訪れるメーカーさんの特徴などを
話してくださいました。移動時間を有効に使う見学前の勉強会はとても良かったです。


・・・・・「ドビー」と「ジャカード」の説明がとってもわかりやすかったです!・・・・

“産地”というのは、愛知県一宮の「毛織物」、
兵庫県西脇産地(播州織物産地)の「綿織物」、
静岡県福田地区の「コーデュロイ」、今治の「タオル」、
和歌山県高野口の「パイル織り」、福井・石川の「合繊」などのように
産地特性のもの作りをしているのが一般的です。
知名度が高くなり、産地のブランディングが図れますが
需要が減ると、産地全体に大きな打撃を受けやすいという難もあります。

山梨織物産地は出荷規模では「富士吉田」で全国の30位程度、
「都留(つる)」で40位程度という、家族経営を中心とした規模の小さな産地です。
このような小さな産地は“個性”を出すことで生き延びてきたといいます。
甲斐絹の生産が激減した時に、先染め・細番手・高密度・紋織りなどの
特性を生かし「服の裏地」「傘地」などへとシフト。
現在ではそれらに加え「ネクタイ(日本一の生産量)」「ストール」「婦人服地」
「カーテン地」「座布団地」「布団地」「ハンカチ」「掛け軸の表装地」「バッグ地」など
実に多彩な生地を、それぞれの機屋さん織っているという
ユニークな産地となっています。
時代の流れに上手く乗っていける産地なのかもしれません。

八王子の産地と並び、東京から非常に近い産地でありながら
「何を作っている産地?」という印象が薄いため
今回のようなバスツアーを通じ、
多くのクリエーターに知って欲しいというのも大きな目的です。


・・・・山梨では「シケンジョ」の五十嵐さん、上垣さん、高須賀さんが迎えてくれ
メーカーを案内してくれました。岐阜や京都からも参加者が加わり、
約20名くらいのツアーとなりました・・・・


・・・・五十嵐さんが手にしている「ヤマナシ ハタオリ トラベル」のフラッグは、
上垣さんが、データを作り「シケンジョ」にあるジャカード織機で織り上げた
ものだそうです。オリジナルのジャカードがすぐ織り上げられるとはすごい!・・・・


・・・・「(株)槙田商店」では、傘生地が織られているジャカード織機と
傘生地を裁断している工程を見学・・・・


・・・・三角定規のようなスケールで傘生地を裁断します・・・・

今回のバスツアーのスケジュールは、
傘生地・傘などを作っている慶応2年(1866年)創業の「(株)槙田商店」を見学し、
B級グルメとしても人気の富士吉田ならではの“太うどん”、「吉田のうどん」で昼食。
午後からは、染色・整理加工の「(株)富士セイセン」、
すべてをあえてシャトル織機に切り替え、
麻を主にしたファクトリーブランドで注目されている「(有)テンジン」を見学。
次に「シケンジョ」に伺い、「(有)渡小織物」「宮下織物(株)」のプレゼンのあと、
「シケンジョ」の貴重な甲斐絹の資料なども見せていただきました。


・・・・「(有)テンジン」のドビー織機。昔ながらのシャトル織機にこだわり
麻生地を織っています・・・・


・・・・ショールームではテンジンのファクトリーブランドの『ALdin』を
見せていただきました。企画・デザインも含め、家族でやっている
ファミリーブランドでもあります・・・・


・・・・「(有)渡小織物」は、アパレルの「ネバアランド」とコラボして開発した
新タイプネクタイの「リボニッシュタイ」の話しを。
(ネバアランドの3人の女性たちが身に付けているものです!)・・・・


・・・・・忌野 清志郎のステージ衣装のテキスタイルもデザインした、
宮下織物(株)」のテキスタイルデザイナー宮下珠樹さん・・・・

夕方からは産地の方とお食事を介しての懇親会。
夜は富士吉田の浅間神社の「すすき祭り」を見物。
パワースポットとしても注目される富士浅間神社は、
以前より大変興味のある神社でした。
吉田の火祭り」は“日本三奇祭”ともいわれる不思議なお祭りです。
諏訪神社と北口本宮富士浅間神社の両方のお祭りで、
夏の富士山の山じまいのお祭りとして毎年8月26日・27日に行われます。
27日のお祭りは「すすき祭り」と呼ばれています。
「シケンジョ」の気の利いたスケジュールで迫力ある祭り見物ができ大満足。


・・・・お昼は富士吉田名物の「吉田のうどん」を!これは「肉つけうどん」・・・・


・・・・懇談会ではツー参加者や産地の方達の自己紹介。自分の作品を持ち寄っての
自己PRも!私はもちろん『テキスタイル用語辞典』を!・・・・・


・・・・「すすき祭り」。松明の灯りのなか、赤富士の神輿を担ぎ、すすきの穂を持った
氏子を従えて浅間神社の“高天原”を七廻りする姿に、鳥肌が立ちました・・・・

朝は事故渋滞で1時間も遅れて到着し、
かなりの厳しいスケジュールをこなしたツアーも、
帰りはスムーズで、夜9時30分頃に台東デザイナーズビレッジに到着。
あっという間の盛りだくさんの見学ツアーでした。
見学させていただいたメーカーのレポートは
次回にアップしますのでお楽しみに!

【Textile-Tree/成田典子】